2007年03月14日

長文:確定申告物語〜本気にしないでください〜

今年もまた、確定申告の季節がやってきた。
僕はいま、書きかけの申告書を前に、税務署の記載コーナーで唸っている。
例年のことだというのに、なぜか僕は、申告書の書き方というやつを覚えられないのだ。

いちおう「申告書の手引き」というパンフレットどおり書いたつもりなのだが、内容に自信が持てない。
まあ、間違っていれば書き直せばいいと言ってしまえばそれまでなのだが、申告書受付に並ぶ人々の数を見ると、しり込みしてしまう。
僕は、この世で五指に入るほどに行列が嫌いなのだ。できれば並ぶのは一度で済ませたい。

とはいえ、唸っているだけではなおさら時間の無駄である。最終確認のつもりで、僕は再度手引きを開く。と、僕の悩む様子に気が付いたのか、長髪の女性職員が声をかけてきた。
 
  
「書き終えられましたか?」

20代後半と見える女性職員は、手引きに書かれたイラストと同じ笑顔を僕に見せる。助かった。職員に内容をチェックしてもらえれば、二度並ぶはめにはならないだろう。

「はい。これで完成しているかな、と思うのですが、どうでしょうか」

だが、迂闊な僕は忘れていたのだ。申告書を見せるということは、僕の程度、僕の地位を見せ付けることだという当然の事実を。

「はい、では拝見・・・」

そこまで言ったところで彼女の笑顔は凍りつき、手の動きも止まる。視線は、申告書の収入金額の欄を凝視している。

「・・・チッ」

彼女は面倒そうに申告書を放り投げると、僕にとってはショックな、しかし、彼女の立場からすれば無理もない言葉をぽつりと漏らした。

「・・・あんたくらいの収入で来られても、申告書の紙代がもったいないくらいなのよね」

今年もか。そう思った。彼女の言うとおりだ。公務員にしてみれば、納税者は客である。高額納税者であれば上客ということになろうが、僕はその域にはほど遠い。
例えば、文房具屋で折り紙一枚だけを買い求めた客が、無料サービスのラッピングを頼んだとしたら店側はどう思うだろうか? もちろんきちんと対応するだろうが、嬉しい客とは言えないだろう。今の僕はそれと同じだ。しかも、昨年も、一昨年もと、毎年同じことを頼みに来る客だ。

「・・・すみませんでした」

僕は彼女に頭を下げると、不安の残る申告書を抱えて申告書受付の行列に加わる。幸い、前に並ぶ人々の受付は順調に進み、3分ほどで僕の番が回ってきた。
僕の申告書を受け取ったのは、50代後半と思われる男性職員だった。久しく見ていなかった事務用の腕差しが懐かしい。

「はいどうぞ・・・」

やはりこの職員も、僕の収入のところで視線が止まる。だが彼は親切にも、僕の記載漏れを指摘してくれた。

「・・・ここ、納める税金の合計額ね、抜けてるから」

どうやら、この場で書かせてくれるようだ。合計額はすぐに算出できる。僕は急いで、受付に置かれたボールペンを手に取った。
それがいけなかった。僕は、ぎりぎりのところで我慢してくれていた彼の怒りを爆発させてしまったらしい。

「・・・何、使ってんだ」
「え?」
「お前のような奴が署のボールペン使ったら、インク代だけマイナスだろうが!」

その言葉とともに、拳が飛んできた。座った体勢からの鈍い拳だが、僕はそれをあえて避けなかった。避ければ、より大きな怒りを誘うことになるからだ。弱者として生きてきた経験から得た知恵のひとつだった。


がつん。


狙いは外れず、彼の拳は僕の頬に当たる。このときの加減も重要だ。あまりにも痛がれば相手の嗜虐心を煽るし、平気な顔をしていればもう一発食らわされる。「とても痛いけれど、懸命に我慢しています」という姿勢が重要なのだ。

「・・・すみませんでした、ボールペン、持参しています」

僕は意図的に顔をしかめながらカバンをまさぐり、再び空欄と向き合った。
どうだ、一発だけで済んだ。僕の名演技で、被害を最小限に食い止めたぞ。
僕は内心でそう誇った。誇ったはずなのに、不覚にも、申告書の上にぽつりぽつりとぬるい水滴が落ちた。

「あーあーあー、何を汚い水落としてんだよ。申告書が汚れるだろうが!」
「・・・はい、すみま、せん・・・」

僕は、申告書を押さえる左手を水滴の落下点、顔の下に移動させる。そうやって手の甲で涙を受け止めながら、小さな、本当に小さな額を書き足した。

「はいよ。もういいよ」

お手数をおかけしました、と言いながら踵を返した僕の背中に、「次の方、人並みの収入のある方どうぞー!」という声が突き刺さった。

憂鬱な行事を終えて税務署を出ると、前から、よろめきそうなほど強い風が吹いてきた。丸めていた背筋を伸ばして踏みとどまると、視界の上に大きな青色が見えた。
(別に、空を見たからといって、気分が晴れるわけでもない)
弱い僕は、なんの罪もない、反論もしてこない空に、心中で悪態をつく。
だが、背筋を伸ばして歩くというのは、少しだけ気分転換に役立ったようだ。歩を進めるごとに、税務署から離れるごとに、自分の中の活力を確かめる。
税務署といったって、腕の一本も取られたわけではないではないか。今はただ仕事を頑張ろう。来年だ、また来年だ。そんな、自分への激励とも慰めともつかないことを思いながら、飲みかけのペットボトルを取り出してジュースを飲んだ。3月も半ばだというのに、ジュースは買ったときよりもさらに冷えていた。



・・・はい、どうも、スズキです。勢いでつらーっと書いてしまいましたが、上記のはすべて嘘、創作でございますので、ご了承をば。本当なのは、僕が低収入ってとこくらいですかねえ。
ご飯食べながらだらだら書いてたら、2000文字超えていたので慌てて切りました(笑)。書きっぱなしジャーマン。

で、実際のところは、僕が行った税務署員の方々は大変親切で助かりました。いろいろ教えていただきながら書きましたよ。
なんであの申告書ってやつは、いつまでたっても書き方を覚えられないのですかね。1年に1回だけ、いやいや書いているから覚えられないのでしょうか。
来年にはまた書き方を忘れていると思いますので、税務署の皆さま、よろしくお願いします!(覚える気なし)

そんなわけで、挨拶が前後しましたが、確定申告やっと終わって嬉しいなというだけの日記でございました。3月15日、明日が期限ですので、これからという方々もラストスパート頑張ってくださいませ!
ほいではまたー。
posted by スズキ at 18:01| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
涙なしでは読めません……!!
おつかれさんでしたぁーーっ!!

殴られるのが嫌なのでw、申告は郵送にしています。。
Posted by サイトウミチコ at 2007年03月14日 19:27
途中からフィクションだろうと思いましたが途中まではこんなとこなの!?って驚いてましたw
自分の場合は免許証の更新で書類の書き方を毎回教えてもらってます^^;
Posted by Fox☆ at 2007年03月14日 20:10
おつかれさんです(笑)。2月16日からずっと「確定申告行かないと……ああ、その前に計算しないと」と心のどこかに何かがトゲのように刺さった思いを抱えて暮らすのはつらい。
長年、申告をしておりますが、なかなか慣れませんね。なにしろ、あの説明書からしてダメダメだよなあ。取説のテイをなしていないと思うのですよ。
Posted by ライター田中 at 2007年03月14日 22:59
>サイトウミチコさん
郵送ですか、そいつはいい手ですね。
とはいえ、僕は記載内容に自信がないので、殴られる覚悟でw直接行っちゃうのですが・・・。

>Fox☆さん
大丈夫ですよー。少なくとも、大田区の某税務署は安全でした。地方によるかもしれませんがw

>ライター田中さん
そう言っていただけると救われます。
おっしゃるとおりあの説明書って、なんというか、「『営業』のところには、営業の利益を入れてください」というような説明のイメージです。単に同じこと繰り返しているだけ、みたいな。
格安でやったるから、こっちにマニュアル作りを回してほしいものです。
Posted by スズキ at 2007年03月15日 02:34
 じっくり読ませていただきました(笑)。税務署の雰囲気が伝わってきますね。俺も今回若い女性が入力を手伝ってくれたのですが、転職したばかりで書類を覗かれるのが嫌でした。
 個人でやっている方は書類作成が大変でしょうね。我が家の場合は高額医療費の申請だけなので、大したことはないんですけどね。
Posted by ばりゅう at 2007年03月15日 23:12
>ばりゅうさん
場所によるのかもしれませんが、東京の公務員の方々は案外、親切ですよね。
ばりゅうさんもお疲れ様でした。
別に納税自体を拒否はしませんが、もっと手続きを簡単にしてほしいものですよね。
Posted by スズキ at 2007年03月16日 08:25
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